宇都宮市は政令指定都市になれる?現状と条件を徹底解説
宇都宮市は栃木県の県庁所在地であり、北関東最大の都市として知られています。人口は約51万人を超え、LRT(次世代型路面電車)の開業など先進的なまちづくりを進めていることでも注目されています。
しかし、全国に20市ある政令指定都市の中に宇都宮市は含まれていません。人口50万人以上という法律上の要件は満たしているにもかかわらず、なぜ政令指定都市になれないのでしょうか?
この記事では、宇都宮市が政令指定都市にならない理由と、政令指定都市になるための条件について詳しく解説します。
政令指定都市とは?基本的な仕組みを理解しよう
政令指定都市の定義
政令指定都市とは、地方自治法第252条の19に基づき、政令で指定された人口50万人以上の市のことです。「指定都市」「政令市」とも呼ばれ、2025年現在、全国に20市が指定されています。
政令指定都市は、一般の市とは異なり、都道府県が持つ権限の多くが移譲されます。そのため、県を通さずに国と直接やり取りができるようになり、より迅速で自立したまちづくりが可能になります。
日本の市の3つの区分
日本の市は、人口規模や行政能力に応じて以下の3段階に分かれています。
| 区分 | 人口要件 | 特徴 |
|---|---|---|
| 政令指定都市 | 50万人以上(実質70万人以上) | 最も大きな権限を持ち、行政区を設置できる |
| 中核市 | 20万人以上 | 政令指定都市に次ぐ権限を持つ(宇都宮市はここに該当) |
| 一般市 | 5万人以上 | 通常の市としての行政サービスを行う |
宇都宮市は1996年4月1日より中核市に指定されており、一般の市よりも多くの権限を持っています。しかし、政令指定都市ほどの権限は持っていません。
全国の政令指定都市一覧(20市)
現在、日本には以下の20の政令指定都市があります。
| 地方 | 政令指定都市 | 指定年 | 人口(概算) |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 札幌市 | 1972年 | 約197万人 |
| 東北 | 仙台市 | 1989年 | 約109万人 |
| 関東 | さいたま市 | 2003年 | 約134万人 |
| 千葉市 | 1992年 | 約98万人 | |
| 横浜市 | 1956年 | 約377万人 | |
| 川崎市 | 1972年 | 約154万人 | |
| 相模原市 | 2010年 | 約72万人 | |
| 中部 | 新潟市 | 2007年 | 約78万人 |
| 静岡市 | 2005年 | 約67万人 | |
| 浜松市 | 2007年 | 約78万人 | |
| 名古屋市 | 1956年 | 約233万人 | |
| 近畿 | 京都市 | 1956年 | 約146万人 |
| 大阪市 | 1956年 | 約277万人 | |
| 堺市 | 2006年 | 約82万人 | |
| 神戸市 | 1956年 | 約151万人 | |
| 中国 | 岡山市 | 2009年 | 約72万人 |
| 広島市 | 1980年 | 約119万人 | |
| 九州 | 北九州市 | 1963年 | 約92万人 |
| 福岡市 | 1972年 | 約164万人 | |
| 熊本市 | 2012年 | 約74万人 |
注目すべきは、四国地方には政令指定都市がないことです。また、北関東3県(栃木・群馬・茨城)にも政令指定都市は存在しません。
政令指定都市になるための条件
法律上の要件:人口50万人以上
地方自治法では、政令指定都市の要件として「政令で指定する人口50万人以上の市」と定義されています。つまり、法律上は人口50万人以上であれば政令指定都市になれる可能性があります。
宇都宮市の人口は2025年10月1日現在で約51万人であり、この法律上の要件は満たしています。
実質的な運用基準:人口70万人以上
しかし実際には、法律上の要件だけでは政令指定都市にはなれません。国の運用基準として、以下のような条件が求められています。
- 人口80万人以上で、将来的に100万人を超える見込みがある都市(従来の基準)
- 人口70万人程度以上の都市(平成の大合併時の緩和基準)
平成の大合併(1999年〜2010年)の時期には、市町村合併を促進するため人口要件が緩和されました。この特例により、静岡市や相模原市、熊本市などが人口70万人台で政令指定都市に移行しています。
ただし、この緩和措置は2010年3月までに合併した市町村が対象であり、現在は基準が厳格化されています。
人口以外に求められる要件
政令指定都市になるためには、人口以外にも以下の条件を満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 行財政能力 | 県から移譲される事務を適正かつ能率的に処理できる能力を持っていること |
| 都市的形態 | 都市としての形態・機能を十分に備えていること |
| 産業構造 | 第一次産業就業者比率が10%以下であること |
| 行政区体制 | 行政区を設置し、区役所を運営する体制が整っていること |
| 県との合意 | 政令指定都市移行について県と市の意見が一致していること |
これらの条件を総合的に判断し、既存の政令指定都市と比較して遜色ないと認められた場合に、政令による指定が行われます。
宇都宮市が政令指定都市にならない5つの理由
理由1:人口が運用基準の70万人に届かない
宇都宮市が政令指定都市にならない最大の理由は、人口が運用上の基準である70万人に達していないことです。
宇都宮市の人口推移を見ると以下のようになっています。
- 2007年(合併時):約50万2千人
- 2020年(国勢調査):約51万8千人
- 2025年(推計):約51万2千人
法律上の50万人は超えているものの、実質的に求められる70万人との間には約20万人もの差があります。この人口差を埋めることは、現在の状況では非常に困難です。
理由2:平成の大合併の特例期間が終了している
2005年から2012年にかけて政令指定都市になった7市(静岡市、堺市、新潟市、浜松市、岡山市、相模原市、熊本市)は、平成の大合併の特例により人口70万人程度で指定を受けました。
しかし、この特例措置は2010年3月までに合併した市町村が対象でした。宇都宮市は2007年3月に上河内町・河内町と合併しましたが、合併後の人口は約50万人にとどまり、70万人には届きませんでした。
現在は特例期間が終了しており、政令指定都市になるためには従来の厳格な基準を満たす必要があります。
理由3:周辺市町村との大規模合併が現実的でない
宇都宮市が人口70万人を達成するためには、周辺市町村との合併が考えられます。しかし、これは簡単ではありません。
宇都宮市周辺の主な市町村の人口は以下の通りです。
| 市町村名 | 人口(概算) |
|---|---|
| 小山市 | 約16万7千人 |
| 栃木市 | 約15万4千人 |
| 鹿沼市 | 約9万2千人 |
| 真岡市 | 約7万8千人 |
| 芳賀町 | 約1万5千人 |
仮に複数の市町村と合併すれば70万人を超える可能性はありますが、各自治体にはそれぞれの歴史や文化、行政サービスの体制があります。大規模合併には住民の合意形成や行政システムの統合など、多くの課題が伴います。
また、平成の大合併以降、自治体合併への機運は全国的に低下しており、新たな大規模合併を進めることは非常に困難な状況です。
理由4:人口減少社会への突入
日本全体が人口減少社会に入っている中、宇都宮市も例外ではありません。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、宇都宮市の人口は以下のように推移すると予測されています。
- 2020年:約51万8千人
- 2030年:約49万人(予測)
- 2050年:約45万6千人(予測)
つまり、今後は人口が減少していく見込みであり、政令指定都市の基準である70万人に達する可能性は現実的にはありません。
地方都市の中では比較的健闘している宇都宮市ですが、これから人口を20万人増やすことは、少子高齢化が進む日本においてほぼ不可能と言えます。
理由5:政令指定都市を目指す動きが停滞している
宇都宮市は過去に政令指定都市を視野に入れた取り組みを行っていました。2007年の上河内町・河内町との合併は、その第一段階として位置づけられていました。
しかし、合併後も人口が70万人に届かなかったこと、そして日本全体の人口減少が明らかになったことから、政令指定都市を目指す動きは事実上停滞しています。
現在の宇都宮市は、政令指定都市を目指すよりも、中核市として都市の質を高める方向に舵を切っています。
政令指定都市になるメリットとデメリット
政令指定都市のメリット
政令指定都市に移行すると、以下のようなメリットがあります。
権限の拡大
- 県を通さずに国と直接やり取りができる
- 都市計画・インフラ整備の決定権を持てる
- 国道や県道の管理権が市に移譲される
- 児童相談所の設置が義務付けられ、子育て支援が充実する
- 教職員の任免権を持ち、地域に根ざした教育ができる
財源の確保
- 宝くじの発売権が得られ、収益が直接市の収入になる
- 地方交付税の算定で優遇措置がある
- 各種財源が県から移譲される
行政サービスの向上
- 行政区(区役所)が設置され、身近な場所で手続きができる
- 県を介さずに迅速な行政サービスが可能になる
都市のステータス向上
- 政令指定都市というブランド力が高まる
- 企業誘致や観光PRに有利
政令指定都市のデメリット・課題
一方で、政令指定都市には以下のような課題もあります。
二重行政の問題
都道府県と政令指定都市がそれぞれ行政権を持つことで、「二重行政」の問題が生じやすくなります。税金の無駄遣いや責任の所在が曖昧になるなどの弊害が指摘されています。大阪府と大阪市の関係がその典型例として知られています。
財政負担の増加
県から多くの事務が移譲されることで、それに伴う財政負担も増加します。特に政令指定都市移行時には、区役所の整備や職員の増員など、初期投資的な経費がかかります。また、移譲される事務に対する財政措置が十分でないという指摘もあります。
移行の手間とコスト
政令指定都市への移行には、行政組織の再編、条例の整備、システムの構築など、多大な労力とコストが必要です。また、住民への周知や理解を得るための取り組みも欠かせません。
宇都宮市の現状と今後の方向性
中核市としての宇都宮市の強み
宇都宮市は政令指定都市ではありませんが、中核市として以下のような強みを持っています。
- 北関東最大の都市として、県内経済の中心的役割を担う
- 政令指定都市を除く都市圏として日本最大の宇都宮都市圏を形成
- 東京から新幹線で約50分というアクセスの良さ
- 大規模な内陸型工業団地を有する工業都市
- 餃子やカクテルなど独自の食文化・観光資源
LRT開業による新たな発展
宇都宮市は2023年8月に、日本初の全線新設型LRT「ライトライン」を開業しました。JR宇都宮駅東口から芳賀町までの約14.6kmを結ぶこの路線は、開業以来好調な利用状況を示しています。
LRT開業の効果として、以下のような変化が報告されています。
- 利用者数は当初予測を上回り、開業1年で累計600万人を突破
- 沿線の地価上昇と商業施設・住宅開発の促進
- 渋滞の緩和とパークアンドライドの普及
- 通勤・通学の利便性向上
さらに、2030年代には宇都宮駅西側への延伸も計画されており、市の中心部への交通アクセスがさらに向上する見込みです。
「ネットワーク型コンパクトシティ」を目指して
宇都宮市は現在、政令指定都市を目指すのではなく、「ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)」の実現を目指しています。これは、無理な規模拡大を追うのではなく、今の規模感のまま都市の質を高めていく戦略です。
具体的には以下のような取り組みが進められています。
- LRTを軸とした公共交通ネットワークの構築
- コンパクトシティやスマートシティの実現
- カーボンニュートラルの推進
- 「スーパースマートシティ」構想の推進
この「未来都市うつのみや」の取り組みは、全国の自治体から注目を集めています。
政令指定都市にならなくても発展できる
「政令指定都市になれない=停滞」ではありません。宇都宮市の事例が示すように、中核市としての権限を活かしながら、独自の戦略で都市の魅力を高めることは十分に可能です。
政令指定都市を目指さない選択
政令指定都市への移行には大きなメリットがある一方で、相応のコストや課題も伴います。人口減少が進む日本において、無理な規模拡大を追うことは必ずしも賢明な選択とは言えません。
宇都宮市のように、現在の規模を活かしながら都市の質を高めるアプローチは、これからの地方都市のモデルケースになる可能性があります。
今後の展望
宇都宮市は今後も、以下のような方向性で発展を続けていくと考えられます。
- LRTの延伸による公共交通ネットワークのさらなる充実
- スマートシティ・コンパクトシティの推進
- 観光資源(餃子、カクテル、大谷石など)の活用
- 工業都市としての強みを活かした企業誘致
- 首都圏へのアクセスの良さを活かした定住促進
まとめ
宇都宮市が政令指定都市にならない理由をまとめると、以下の通りです。
- 法律上の要件(50万人)は満たしているが、運用上の基準(70万人)に届かない
- 平成の大合併の特例期間が終了している
- 周辺市町村との大規模合併は現実的でない
- 日本全体が人口減少社会に入り、将来的な人口増加は見込めない
- 市として政令指定都市を目指す方針から転換している
しかし、政令指定都市にならないことが都市の発展を妨げるわけではありません。宇都宮市は中核市として独自の強みを活かし、LRTの開業など先進的なまちづくりを進めています。
「大きくなること」よりも「質を高めること」を重視する宇都宮市の取り組みは、人口減少時代における地方都市の新しいモデルとして、今後も注目を集めることでしょう。